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10月の大人コース

「 秋 」
かこさとし
講談社 1,760円

 

 物事を理解していくために「わかりやすい見取り図」を描くこと。それを未来を生きる子どもたちに手渡したい。そんな思いからたくさんの作品を生み出していったかこさん。ただ、反戦を願いながらも、これまで戦争を直接題材にした作品はなかったそうです。没後、戦争体験をもとに描いた未発表の紙芝居が見つかり、絵本として出版されることになりました。『秋』の絵は、古い記憶の中に決して消えることのない映像として、強いタッチで描かれています。
 ある印象的な話の場面で「飛行機雲」が描かれています。「日本軍の飛行機は高空は飛べなかったので飛行機雲なんて出来ないが、B29は出来た。科学技術の差は飛行機雲ひとつで歴然でした。」(『未来のだるまちゃんへ』より)という言葉と重なりました。科学的で冷静な視点で世の中を見ていたかこさん。また、読んでいくうちにかこさんの「痛み」が伝わってきます。傷、生活苦、別れの痛みを一緒に感じている。すると、なぜ戦争がいけないのかがはっきりとわかる。この「痛み」を想像することは、平和のうちにある私たちにとって、とても大切なことだと思うのです。
痛みを感じたなら、二度とその痛みは味わいたくないでしょう。何の痛みなのか、どうして痛いのかはっきりさせ、その痛みを大切な人が味わうことがないよう願う。かこさんの絵本作りの精神がここにもあります。      (さつき)